平成3年10月、福祉バスの購入という偶然のきっかけから結成された「健康と福祉を考える会」。村の保健・医療・福祉の関係者が集まって一致団結し、病弱で介護が必要なお年寄りを在宅で支えようと、次々と事業を展開。
デイサービスの開始、訪問活動の計画化と効率化、ボランティアグループとの育成と協力、健康と福祉に関する集落座談会や各種イベント。。。徐々に「福祉の心」が広まればいいと思いながら実践していったのですが、潜在的なニーズがあったのか、比較的早い段階で「保健医療福祉の総合施設を建てよう」という運動にまで発展。
住民も職員も参加した基本構想に長い月日が費やされ、ついには平成11年4月、保健医療福祉総合施設「あっとほ〜むいきいき館」のオープンとなりました。
その翌年の平成12年4月から、いよいよ介護保険制度が開始となりました。あらかじめそれを予測した上で対応していたため、大きな混乱は生じず、介護保険制度はスムーズに導入されました。
その間、実はおもしろいことがわかってきました。私たちの在宅ケアを支える活動が、数値的に評価されてきたのです。
国民健康保険の医療費地域差指数は、各市町村が同じ人口構成であったと仮定した場合の一人当たりの医療費です。つまり、本質的な一人当たりの医療費といえます。私たちが連携して在宅ケアを支え始めた平成3年度は、福井県内35市町村のうち低い方から第17位でした。ところが、平成6年度には4位になり、その後も最も低い医療費のランクに位置しています。特に、平成10年度には最も低い医療費の自治体となりました。
老人医療費も平成6年度以降は、県平均を大きく下回り、県内でもっとも低いランクの老人医療費を維持してきました。
介護保険における第1号保険料(65歳以上の高齢者が市町村に納める保険料)も、県内でもっとも安い1ヶ月2500円でした。
それとは逆に、福井県内で最も介護保険料が高く(1ヶ月4000円)、医療費も高いランクにあったのは、海の町E町でした。この町は特別養護老人ホームを有し、従来から施設ケアを重点的に行っており、在宅ケアを受ける高齢者は非常に少ない割合です。この町では、家でお年寄りを看ることがかわいそうで、立派な施設に入れることが親孝行という雰囲気があると聞いています。
もちろん、どちらがいいか悪いかということではなく、それぞれの自治体が自分たちにあったスタイルの介護を行えばいいのですが、在宅ケア重視の自治体は保険料が安く、施設ケア重視の自治体は保険料が高いのは全国的な傾向です。
私たちが実践してきた在宅ケア重視の方向性が、医療費でも介護保険料でも数値的に評価されたことは、住民にとってもスタッフにとっても大きな自信につながりました。
勝手な推測ではありますが、「海の文化」と「山の文化」には明らかに違いがあると思うのです。
海の文化は漁業が中心。仕事場は「船底1枚下は地獄」とも言われる海の上。仕事場と暮らす場所は別々。大漁の魚を市場にあげて一段落。流通にのせるのは主に女の仕事。男たちが飲むのも遊ぶのもたいていは家の外。気性は荒い。現金収入が多く、男も女も外で働き家を空けがちで、家に帰ってすることは食べることと寝ることだけ。
山の文化は農林業。田畑を耕し、炭を焼き、牛や馬を飼って生計を立てる。現金収入は少なくても、食うには困らない。家の中には土間と板間があって、生業の場と生活の場が一体化した家屋構造になっている。気性は穏やか。男も女も家の近くで行動し、飲むのも遊ぶのも家が基本。
いささか極端に対比し過ぎた傾向があり、「今は違う」と言われれば反論はできません。それでも、海山それぞれの生活文化は、そこで育った人々のDNAに深く刻み込まれているような気がしてならないのです。
山の中では「家」を中心に、仕事と家庭を分けようにも分けられない状況の中で、家族みんなが肩を寄せ合い暮らすことで、家族の絆が強くなり、家に対する愛着がますます強くなっていきます。「生まれたのも死ぬのもこの家」といった感情が自然にわいてくるのでしょうか。
海の町で生まれ育った私は、この山の生活文化に深く惚れ込んでしまい、見事にはまってしまい、現在に至ります。